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大阪地方裁判所 平成5年(行ウ)10号 判決 1994年10月31日

原告

早川義隆

原告

谷口吉郎

原告

神保佳弘

原告

谷本冨英

右四名訴訟代理人弁護士

森博行

氏家都子

被告

生野郵便局長有吉喜八郎

右指定代理人

一谷好文

山田敏雄

日野和也

中本薫

石丸須弥子

森田賢

清水眞

小河隆司

田中健

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、平成二年八月九日付けで原告早川義隆(以下「原告早川」という。)に対してした減給処分(一月間俸給の月額の一〇分の一)、原告谷口吉郎(以下「原告谷口」という。)に対してした減給処分(一月間俸給の月額一〇分の一。ただし、平成四年一一月二四日付け人事院判定により戒告処分に修正されたもの)、同月一三日付けで原告神保佳弘(以下「原告神保」という。)に対してした減給処分(一月間俸給の月額一〇分の一)、原告谷本冨英(以下「原告谷本」という。)に対してした戒告処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、いずれも生野郵便局(以下「生野局」という。)集配課に勤務する郵政事務官である。

2(一)  被告は、原告早川に対し、平成二年八月九日付けで、「平成二年六月一一日勤務時間中、生野局第一集配課事務室において、同局管理者の就労命令に従わず、第一集配課長に対し、不穏当な言辞を弄して執拗に抗議した。」との理由で、一月間俸給の月額一〇分の一を減給する旨の懲戒処分をした。

(二)  被告は、原告谷口に対し、同日付けで、右同様の理由で、一月間俸給の月額一〇分の一を減給する旨の懲戒処分をした。

(三)  被告は、原告神保に対し、同月一三日付けで、右同様の理由で、一月間俸給の月額一〇分の一を減給する旨の懲戒処分をした。

(四)  被告は、原告谷本に対し、同日付けで、「平成二年六月一一日勤務時間中、生野局第一集配課事務室において、同局管理者の就労命令に従わず、第一集配課長に詰め寄り、執拗に抗議した。」との理由で、戒告の懲戒処分をした。

3  原告らは、右の各処分を不服として、人事院にそれぞれ審査請求をした。人事院は、平成四年一一月二四日付けで、原告谷口に対する減給処分を「不穏当な言辞を弄した。」との事実が認められないとの理由で、戒告処分に修正し、その余の原告らに対する各処分をいずれも承認する旨の判定をし(以下、原告谷口に対する人事院判定による修正後の右処分及びその余の原告らに対する平成二年八月九日付け及び同月一三日付けの各懲戒処分を「本件各処分」という。)、同判定書は、同月二八日以降原告らに送達された。

4  しかし、本件各処分は、事実を誤認し、懲戒権を逸脱ないし濫用してなされた違法な処分であるから、原告らは、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3のうち、人事院の判定書が平成四年一一月二八日以降原告らに送達されたことは不知、その余は認める。

3  同4は争う。

三  抗弁

原告らの行為は、国家公務員法八二条各号所定の懲戒事由に該当するので、本件各処分に違法はない。

1  本件各処分に至るまでの経緯

(一) 近畿郵政局管内(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県)の各郵便局等においては、職員が勤務時間中に着用する氏名札について、従来から個々に内規を定めるなどしてその着用を指導してきたが、平成二年五月二四日、指名札着用の指導徹底について近畿郵政局管内の郵便局等の間の統一を図るため、近畿郵政局長達第五九号(以下「本件達」という。)及び同局人事部長等連名による通達(以下「本件通達」という。)が発出された。

(二) 原告らの勤務する生野局では、本件達及び通達を受けて、同局職員の氏名札の完全着用に向けての取組方針を決定した上、同年六月一一日、同局庶務会計課をはじめとする各課において、氏名札の着用の趣旨等について職員に周知・指導することとし、第一集配課、第二集配課及び第三集配課の各課においては、勤務時間中の同日午後一時一五分ころから、周知等が一斉に行われた。

(三) 第一集配課(班構成は第一班から第四班まで)においては、同課課長田渕利宣(以下「田渕課長」という。)が第一班から順に、第二集配課(班構成は第五班から第八班まで)においては、休暇で不在の同課課長に代わって副局長の前西利員(以下「前西副局長」という。)が第五班から順に、第三集配課(班構成は第九班から第一一班まで)においては、同課課長池田凱郎(以下「池田課長」という。)が第九班から順に、各々周知等を行った。

(四) このうち、第一集配課においては、同課上席課長代理笹谷省司(以下「笹谷上席代理」という。)から当日出勤の各職員に対し資料(本件達及び通達を複写したもの)を配布の上、田渕課長により順次周知等が行われた。田渕課長が第三班班員に対する周知等を終了した午後一時一九分ころ、第一集配課事務室内において、同班所属の職員鈴木正一(以下「鈴木」という。)が同課長に対し抗議する事態が発生し、これに原告神保及び原告谷口ら同課の職員あるいは原告早川及び原告谷本ら他の課の職員も加わり、前西副局長及び田渕課長ら同局管理者が就労するよう職務上の命令を発したにもかかわらず、抗議に加わった右職員らはこれに従わず、午後一時二九分ころまでの間、田渕課長に対し執拗に抗議した。

(五) 原告らは、右抗議の際、各々次に掲げる非違行為を行い、職場秩序を著しく紊乱させたものである。

2  原告らの非違行為

(一) 原告神保について

原告神保は、当時第一集配課主任として勤務し、第二班に所属していたが、田渕課長が第三班所属の班員に対する氏名札着用についての周知等を終えて第四班へ向かおうとした際、第三班に所属する鈴木が同課長に対し「課長、誰も聞いてないやないか、そんなんミーティングと違うぞ。」と抗議したのを契機に、同原告も大声で「二班のミーティングは、まだ終わっていないぞ。」と言いながら同課長に近づきその耳元で、「おい、こら、なにがミーティングや、こっちの意見を聞いていないやないか。」と大声を発し、「おい、こら。」は暴言であると注意した同課長に対し、なおも大声で「なにをいうとんのや。お前ら。」と申し向け、同課長がこの状況を現認するよう近くにいた管理者等に命じたところ、「何が暴言や。これがお前らの手口か。」と言って抗議を続けた。また、この間、同原告は、第二集配課において周知等を行っていて騒ぎに気付いて駆けつけた前西副局長が発した「解散して仕事に就きなさい。」「職場に戻りなさい。」との数回の就労命令及び田渕課長の発した「ミーティングは終わった。仕事をしなさい。」との就労命令に従わなかった。

(二) 原告谷口について

原告谷口は、当時第一集配課主任として勤務し、第三班に所属していたが、自班に対する周知等が終了し、田渕課長に対する抗議が始まった際、同課長に対し、「こんなんミーティングと違う。一方的やないか。」「質問になぜ答えられん、答えんかい。」などと強い口調で言って執拗に抗議し、原告神保同様、前西副局長及び田渕課長の発した就労命令に従わなかった。また、抗議に参加していた第三集配課職員を就労させるため第一集配課事務室に来た池田課長に対し、「お前来るな、何で来るんや。お前には恨みあるんやど。」と申し向け、さらに「こんなミーティング無効や。」「ミーティングやり直しや。」などと大声で叫んだ。

(三) 原告早川について

原告早川は、当時第三集配課総務主任として勤務し、第九班に所属していたが、自班に対する周知等終了後、第一集配課職員による田渕課長に対する抗議に加わり、同課長に対し「ミーティングで現認とは何や。」「現認を取り消さんかい。」などと執拗に抗議し、原告神保同様、前西副局長の就労命令に従わず、また、同副局長に対し、「お前あっちへ行けや。」と申し向け、さらに池田課長の発した仕事をするようにとの就労命令にも従わず、田渕課長に対し「何で質問に答えられへんねん。」「質問に答えんのが筋やろ。」「ミーティングやり直しや。」などと言って執拗に抗議した。

(四) 原告谷本について

原告谷本は、当時第二集配課主任として勤務し、第五班に所属していたが、自班に対する周知等終了後、田渕課長に対する抗議に加わり、原告神保同様、前西副局長の発した就労命令に従わず、両手を後ろに組み、自分の顔を田渕課長の顔に近付けるようにして同課長に詰め寄り、「現認発言を取り消せ。」などと繰り返し言って抗議した。また、同課長に詰め寄ってなおも抗議する原告谷本に対し前西副局長が「谷本君やめなさい。」と言ってこれを制止しようとしたが、同原告はこれに従わなかった。

3  本件各処分の適法性

原告らの行為は、就労命令に従わず、不穏当な言辞を弄し(原告谷本を除く。)、田渕課長に対して執拗に抗議を行ったもので、いずれも国家公務員法九八条一項、九九条及び一〇一条一項前段に違反し、同法八二条各号所定の懲戒事由に該当することは明らかであるから、本件各処分は、なんら違法な点はなく、適法である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁冒頭の主張は争う。

2(一)  同1(一)のうち、平成二年五月二四日に達及び通達が発出されたことは認め、その余は否認ないし不知。

(二)  同(二)のうち、同年六月一一日に生野局集配各課内において昼休み後一斉に氏名札着用に関する職員周知が行われたことは認め、その余は不知。

(三)  同(三)は認める。

(四)  同(四)のうち、第一集配課において、笹谷上席代理から当日出勤の各職員に対し資料を配布の上、田渕課長により順次周知等が行われたことは認め、その余は否認する。

(五)  同(五)は否認する。

3(一)  抗弁2(一)のうち、原告神保が、当時第一集配課主任として勤務し、第二班に所属していたことは認め、その余は否認ないしは争う。

同原告は、田渕課長が、作業中の職員の手を休ませてその注意を自分の方に向けさせることもせず、班の入口付近から一方的に文書を読み上げ、同原告らの質問にも答えずに第二班での周知行為を終え、第三班での周知の際、「聞いてください。」と大声で言うのを聞いて、第二班を出て同課長の近所まで行き、「お前なあ、人の話聞く耳持ってないのに、何で人に対し聞いてくださいと言えるんか。」と少し感情的になって発言した。すると、同課長が、「お前って誰のことや。」と言うので、「あんたのことや。」と答えたところ、同課長は、「お前は暴言やで。現認しとけ。」と周囲にいた管理者に興奮した声で命じるに至ったため、同原告は、「現認とはなんやねん。」等の発言はしたが、「おい、こら。」「何が暴言やねん、これがお前らの手口か。」といった発言はしていない。

また、同原告は、本件の最後の方に前西副局長の「解散しなさい。仕事しなさい。」という声は聞いたが、田渕課長の就労命令は聞いていない。

(二)  同(二)のうち、原告谷口が、当時第一集配課主任として勤務し、第三班に所属していたことは認め、その余は否認ないし争う。

同原告は、田渕課長の第三班での周知方法が、あまりにもおざなりであったので(その態様は、前述した第二班での周知態様と同様であった。)、同課長に対し、「こんなんミーティングと違う。一方的やないか。質問になぜ答えられん。」との意見具申はしたが、池田課長に対し、「お前来るな。何で来るんや。お前に恨みあるんやど。」とは言ったことはない。

また、同原告は、管理者の「仕事をしなさい。」という声を耳にしたようにも思うが、従来のように名指しではなかったので、拘束力のある就労命令が発せられたとは理解しなかった。

(三)  同(三)のうち、原告早川が、当時第三集配課総務主任として勤務し、第九班に所属していたことは認めるが、その余は否認ないし争う。

同原告は、ミーティングのやり方について、事前に当局から「質問が出たら丁寧に答える。」という回答があった旨の報告を受けていたので、第一集配課方向での騒ぎに気付いてその場へ行き、全逓信労働組合大阪城南支部支部長としての立場から、田渕課長に対し、「ミーティングで現認とはおかしい。」「ミーティングをもう一度やり直したらどうか。」という趣旨の意見具申を穏やかな口調で行った。これに対し、同課長は、「よし、分かった。ミーティングをもう一度やり直す。」と言って、第三班に戻った。

また、原告早川は、就労を命じる管理者らの声を一切聞いていないし、前西副局長に対して、田中芳夫(以下「田中」という。)が同副局長を呼んでいたので、「あっち呼んでるやないか。行ったら。」と言ったことはあるが、「お前あっちへいけや。」と言ったことはない。

(四)  同(四)の事実のうち、原告谷本が、当時第二集配課主任として勤務し、第五班に所属していたことは認め、その余は否認ないし争う。

同原告は、第一集配課の方向から「現認」という不穏当な声が聞こえたので、ミーティングの場で現認とは穏やかでないと思い、右支部生野分会分会長としての立場において、その場を収めるため声のした方向に駆けつけ、状況を把握した後、田渕課長に対し、「現認を取り消せ。」と要求したことはあるが、その際、同課長とは長机を挟んで約一メートルの間隔をあけて対じしていたのであり、自分の顔を同課長の顔に近付けるようにして同課長に詰め寄ったことはない。

また、同原告は、同課長の就労命令は聞いたが、前西副局長のそれは聞いていない。

(五)  同(五)は争う。

五  再抗弁

仮に、原告らの行為が、国家公務員法八二条各号所定の懲戒事由に該当するとしても、本件各処分は、懲戒権を逸脱ないし濫用してなされたものであるので違法である。

1  正当な意見具申に対する処分

(一) 本件に先立つ平成二年六月四日に行われた全逓信労働組合大阪城南支部生野局分会(以下「生野分会」という。)比嘉書記長と植木庶務会計課長との間の公式の窓口折衝において、以前の担務差別の轍を踏まぬようにとの組合側の強い申し出に対し、当局側は、「着用のいかんで差別はしないし、また強制するものではない。」と回答した。

これを受けて、同月六日、生野局内において、各課役職者選出の幹事を集めた経営推進幹事会が開催され、氏名札着用周知に向けての意思統一が図られたが、その席上、職員周知に際し職員から質問や意見が出た場合の対処方法につき、簡単な質問であればその場で答え、そうでない質問に対しては後日答えることにして留保する旨の意思統一が行われた。他方、生野分会では、翌七日に開催された分会役員会において、過去に氏名札を着用しないことを理由にした業務上の差別取扱いが行われたことや、組合員個人が納得した上で着用することが望ましいこと等から、分会長である原告谷本が当局側窓口責任者である前西副局長と面談し、職員周知の際には一方的な説明に終始せず、質問・意見が出れば丁寧に答えるよう要請すること及び職場集会を開催して組合員に対しその経過を報告することを決定した。

こうして、同月一一日午前、同原告と同副局長との間において交渉の場が持たれ、同原告が、右組合の要請を伝えたところ、同副局長は、氏名札についての理解を求める努力を行うとともに、質問等があれば答えることにやぶさかではない旨の回答をした。そこで、同日昼休みに開催された職場集会において、右回答を含めそれまでの経過が組合員らに対し報告された。

(二) 田渕課長は、氏名札着用に関する職員周知についての右労使確認にもかかわらず、第一集配課の各班職員に周知を行う際、班員を集合させることはおろか、作業中の班員の手を休ませることすらせずに、各班の入口付近に立って一気に文書を読み上げ、読み終えると一方的に周知を終え、班員に対し質問の機会を全く与えなかった。また、班員から一度ならず質問が発せられたが、すべて無視し、さっさと次の班へ移動してしまった。

(三) よって、原告らの本件行為は、右田渕課長の周知態度に対する正当な是正要求であり、また、右正当な是正要求に対し、同課長がなした現認発言の撤回を求めるための正当な意見具申であるから、これを懲戒処分の対象とすることは、明らかに懲戒権の逸脱ないし濫用である。

2  他事考慮

(一) 氏名札着用強制は、昭和六二年一一月に発表された「郵政事業活性化計画」(以下「活性化計画」という。)の一環として採用された施策である。従来、氏名札の着用については郵政省あるいは郵政局内において統一した指導はなく、各局において着用を命ずるところもあればそうでないところもあるというように、まちまちに取り扱われてきたが、それが平成二年五月になって近畿郵政局から本件達及び通達が発出され、一斉に全員着用が命ぜられるに至ったのは、指名札着用強制が右活性化計画の基本施策の一つである「マンパワーの高揚」のための労務政策の一つとして位置づけられたからにほかならず、その真の意図は、職員に対し忠誠を誓わせることにあったことは明白である。

(二) 本件達及び通達の発出に至る右のような経過は、まさしく、氏名札着用が当局において是が非でも完遂されねばならない至上命令となっていたという事実を物語っているし、近畿郵政局人事課から各局におろされた「氏名札未着用者に対する措置要項」なる文書の存在からしても、右の事実は明らかである。

したがって、当局にとっては、本件達及び通達に基づく職員周知が、氏名札の「完全着用に向けてのスケジュール」の第一段階をなすものである以上、その実施に当たり職員に対し毅然たる態度を示すことがどうしても必要だったわけであり、もし、周知に伴いトラブルが生起した場合には、その原因が奈辺にあるかを問わず、労務政策上の必要性に基づき、先制パンチとしての処分攻勢をかけるべき十分な理由があったということができる。

(三) よって、本件各処分は、右の政策的必要性という「他事」を「考慮」したが故にあえて発令されたものであって、懲戒権の逸脱ないし濫用に当たるというべきである。

3  平等原則違反

(一) 本件各処分当時、原告神保は、生野分会役員であり、原告谷口は、全逓信労働組合城南支部執行委員であり、原告早川は、同支部支部長であり、原告谷本は、生野分会分会長であった。

また、本件に関連して他に一一名の職員に対し訓告処分が発令されたが、原告らも含めた一五名の被処分者のうちには、四名の同支部執行委員(生野局集配課に所属する執行委員全員)及び八名の同支部生野分会役員(同じく役員全員)が含まれていた。

(二) 氏名札着用に関する職員周知時には、多くの職員が、質問を行ったり、周知のやり直しを求めたりしたにもかかわらず、右のとおり組合の主要役員を狙い打ちにして処分が発令されており、本件各処分は、国家公務員法二七条の平等原則に違反するものであり、懲戒権の逸脱ないし濫用に当たるというべきである。

4  比例原則違反

本件各処分の対象となった原告らの行為は、事前の労使確認どおりの方法での職員周知のやり直しを求め、また、管理者の「現認しとけ」等の暴言をたしなめただけのものであり、従前の例によれば減給や戒告の処分に付されるはずのないものであるので、本件各処分は、相当性を欠き、比例原則に違反するものであり、懲戒権の逸脱ないし濫用に当たるというべきである。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁冒頭の主張は争う。

2(一)  同1(一)のうち、平成二年六月四日に比嘉分会書記長と植木庶務会計課長との間で窓口折衝があったこと及び同月六日に生野局で経営推進幹事会が開催されたことは認め、その余は否認ないし不知。

経営推進幹事会は、氏名札着用の指導徹底について近畿郵政局管内の各郵便局等の間の統一を図るために発出された本件達及び通達を受けて、氏名札着用の趣旨、目的、近畿郵政局管内あるいは生野局等の指名札着用の現状を説明し、同局における氏名札着用の徹底に向けての取り組みについて出席各課の課長代理以上の役職に理解と協力を求めたものであり、原告らが主張するような意思統一がされた事実はない。

また、同月一一日午前に原告谷本と前西副局長との間で交渉の場が持たれたという事実はない。

(二)  同(二)は否認する。

田渕課長は、あらかじめ当日出勤の各職員に対し、笹谷上席代理に資料を配布させた上、各班の入り口付近に立ち、笹谷上席代理とともに「ミーティングを始めるからこちらを向いてくれ。」と班員全員に聞こえるよう大きな声で職員に声をかけ、十分職員の注意喚起を行った上で職員周知を実施した。右周知方法は、従前どおりの方法であり、何ら非難されるべき点は存しない。

(三)  同(三)は争う。

3  同2は否認ないし争う。

氏名札着用の施策を労務政策の一つと位置付ける原告らの主張は、曲解に基づく独自の主張であって、何ら根拠はない。

4(一)  同3(一)のうち、本件各処分当時の原告らの組合役職及び本件に関連して他に一一名の職員に対し訓告処分が発令されたことは認め、その余は否認する。

当時、生野局第一ないし第三集配課にいた支部役員は四名、分会役員は八名であるが、原告らを含む被処分者一五名のうち、支部役員であった者は、原告早川、同谷口、同谷本他一名の計四名、分会役員であった者は、原告谷本(同原告は、分会長であるとともに支部執行委員でもあった。)、同神保ほか五名の計七名であった。

(二)  同(二)は否認ないし争う。

原告らに対し本件各処分を行ったのは、原告らがそれぞれ当該処分に相当するだけの前記非違行為を行ったからにすぎない。本件に関連する被処分者一五名のうち五名は組合役員ではないし、組合役員でありながら何ら処分されていない者もいる。

5  同4は否認ないし争う。

本件各処分は、原告らの勤務時間中、職場内で上司の職務上の命令に従わず、管理者に執拗に抗議し、職場の秩序を著しく乱した非違行為に対するものであり、右非違行為に比例した相当な処分である。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  請求原因1及び2の各事実並びに同3の事実のうち、原告らが平成二年八月九日付け及び同月一三日付けの前記各処分について人事院に対し審査請求をし、人事院が平成四年一一月二四日付けで、原告谷口に対する減給処分を戒告処分に修正し、その余の原告に対する各処分をいずれも承認する旨の判定をしたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右判定書は、同年一二月二八日以降原告らに送達されたことが認められる。

二  そこで、国家公務員法八二条各号所定の懲戒事由の存否について判断する。

1  抗弁1のうち、平成二年五月二四日に本件達及び通達が発出されたこと、同年六月一一日に生野局集配各課内において昼休み後一斉に氏名札着用に関する職員周知が行われたこと、第一集配課においては、笹谷上席代理から当日出勤の各職員に対し資料を配布の上、田渕課長により順次周知等が行われたことは当事者間に争いがなく、右事実に成立に争いのない(証拠・人証略)の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  原告らの勤務する生野局においても、本件達及び通達を受けて、氏名札完全着用に向けてのスケジュールに従い、平成二年六月一一日から、同局職員に対する周知・指導を開始した。

(二)  原告らの所属する集配課においては、同日、昼休み明けである午後一時一五分ころから、一斉に職員周知が行われた。第一集配課においては、田渕課長が第一班から順に周知を行っていたが、同課長が第三班所属の職員に対する周知を終え、第四班へ向かおうとした午後一時一九分ころ、第三班所属の鈴木が同課長に抗議をしたのをきっかけに、原告ら四名ほか二〇数名の職員が第三班及び第四班の付近に集まり、同課長に抗議する事態が発生した。原告らは、右事態を収拾するために前西副局長及び田淵課長らが発した就労命令にも従わず、午後一時二九分ころまで右抗議を続けた。

2  抗弁2のうち、本件当時の原告らの官職及び所属が被告主張のとおりであることについては当事者間に争いがなく、前掲記の各証拠によると、次の事実が認められる。

(一)  原告神保について

田渕課長が第三班所属の職員に対する周知を終え、第四班へ移動しようとした際、第三班所属の鈴木から誰も聞いていない旨の抗議がなされた。これに対し、「みんな聞いていてくれる。」等の応答をした同課長の声を耳にした原告神保は、「二班のミーティングは、まだ終わってないぞ。」と言いながら、同課長に近付き、その耳元で、「おい、こら、何がミーティングや、こっちの意見を聞いてないやないか。」と大声で抗議をし、同原告の「おい、こら」という発言は、暴言であると注意した同課長に対し、さらに、「何を言うとんのや。お前ら。」と言った。そこで、同課長は、側にいた笹谷上席代理らに現認を命じたところ、同原告は、「何が暴言や。これがお前らの手口か。」と抗議を続けた。

また、この間、同原告は、騒ぎに気付いて駆け付けた前西副局長及び田渕課長が発した数度の就労命令に従わず、同様の抗議を続けた。

(二)  原告谷口について

原告谷口は、田渕課長の右現認発言を耳にし、自席を立って、同課長の側に行き、「現認とはどういうことやねん。」「こんなんミーティングと違う。一方的やないか。」「質問になぜ答えられん。」などと強い口調で言い、前西副局長及び同課長の発した就労命令に従わずに、また、騒ぎを聞いて駆け付けた池田課長に対し、「課が違うんやから、あっちの方へ行ってくれや。」と発言し、なおも執拗に抗議を続けた。

(三)  原告早川について

原告早川は、自班でのミーティングが終わった後、第一集配課の方から、原告谷本の「現認とはおかしい。」という声が聞こえてきたため、すぐにその場所に行き、田渕課長に対し、「ミーティングで現認とはなんや。」「現認を取り消さんかい。」などと抗議した。騒ぎに気付いた前西副局長が、右現場へ駆け付け、繰り返し就労命令を発したが、同原告は、これに従わず、また、同副局長に対し、「お前あっちへ行けや。」と言い、さらに、池田課長の発した就労命令にも従わず、田渕課長に対し、「何で質問に答えられへんねん。」「質問に答えんのが筋やろ。」「ミーティングやり直しや。」などと執拗に抗議を続けた。

(四)  原告谷本について

原告谷本は、第一集配課の方から、原告谷口の「現認とはどういうことか。」という声が聞こえてきたため、すぐにその場所に行き、田渕課長に対する抗議に加わり、騒ぎに気付いて駆け付けた前西副局長の発した就労命令に従わず、同課長への抗議を続けた。原告谷本は、「現認発言を取り消せ。」と繰り返し言いながら、同課長に接近して詰め寄ったので、前西副局長が、二人の間に入るようにして制止したが、なおも執拗に抗議を続けた。

3  右のように認められるところ、原告らは、右とは異なる事実関係を主張するので、以下順次検討する。

(一)(1)  原告神保は、「おい、こら。」「何が暴言やねん。これがお前らの手口か。」という発言はしていない旨主張し、(証拠略)には、右主張に沿う記載がある。

しかし、同原告は、田渕課長に対し「お前」という不穏当な発言をした事実は認めていること、同様に、同課長が現認発言をしたことを認めているが、右現認発言は、同原告の不穏当な発言の存在を前提とするものであると考えるのが合理的であること、同課長作成の現認書(<証拠略>)には、同原告が右発言をした旨記載されているが、右現認書は、本件翌日、記憶の鮮明なうちに作成されたものであり、前判示の点も考え併せるとその記載に格別不合理な点も認められないことに照らせば、(証拠略)の記載は採用することができない。

(2)  また、同原告は、本件騒ぎの終了間際に前西副局長の「解散しなさい。仕事をしなさい。」という声は聞いたが、田渕課長の就労命令は聞いていない旨主張し、(証拠略)にはこれに沿う記載がある。

しかし、田渕課長は、右現認発言の後就労命令を発した旨を現認書に記載し(<証拠略>)、公平委員会においても同旨の証言をしていること(<証拠略>)、原告谷本は、同課長の就労命令を聞いた旨を主張し、公平委員会においても同旨の供述をしていること(<証拠略>)、公平委員会における原告らの供述及び各証人らの証言並びに各添付図面によれば(<証拠略>)、本件当時、原告神保と同課長の距離はほとんど離れていなかったと認められることに照らせば、同原告の同課長の就労命令は聞いていない旨の(証拠略)の記載は採用することができない。

(3)  のみならず、前西副局長は、公平委員会において、第一集配課の方で大きな声がしたので、通路に出てみると、多数の職員が集まって騒然となっていたことから、第八班の職員にちょっと待てと言って、すぐに第一集配課へ駆け付けた旨を証言しており(<証拠略>)、同班所属の田中も、公平委員会において、右同様の証言をしているのであるが(<証拠略>)、同副局長は、生野局全体を指導・管理する立場にあるので、本件現場に駆け付けながら、騒ぎが収まる直前まで、有効な手だてを講じずに傍観していたとは考えられないこと、同副局長及び田渕課長作成の現認書(<証拠略>)には、同副局長は、現場に駆け付けると同時に、数回就労命令を発した旨の記載があり、右両名は、公平委員会においても、右同様の証言をしていること(<証拠略>)、公平委員会における原告らの供述及び各証人らの証言並びに各添付図面によれば(<証拠略>)、本件当時、原告神保と同副局長の距離はほとんど離れていなかったと認められることからすれば、同副局長の就労命令は聞いたが、それは本件騒ぎの終了間際であったとする(証拠略)の記載も採用することができず、ほかに前記認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  原告谷口は、管理者の「仕事をしなさい。」という声を耳にしたようにも思うが、従来のように名指しではなかったので、拘束力のある就労命令が発せられたとは理解しなかった旨主張し、(証拠略)にはこれに沿う記載がある。

しかし、本件現場において、前西副局長及び田渕課長が、数回就労命令を発したものと認められることは、前判示のとおりである上、前記認定事実によれば、本件現場においては、原告らを含め二〇数名の職員が執拗に抗議を続けており、騒然とした状態であり、右就労命令は、かかる騒然とした状態を収拾し、原告らを解散させ、就労させるためになされたものであることが明らかな状況にあったものと認められる以上、右就労命令が名指しでなされなかったとしても、有効な就労命令として、現場にいる職員を拘束するものであることは明白であったものと認められることにかんがみれば、(証拠略)の記載は採用することができず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)(1)  原告早川は、前西副局長に対して、「お前あっちへ行けや。」と言ったことはない旨主張し、同旨の供述をするとともに、(証拠略)にはこれに沿う記載がある。

しかし、同副局長作成の現認書(<証拠略>)及び田渕課長作成の現認書(<証拠略>)には、同原告が右発言をした旨記載されていること、田渕課長作成の現認書に格別不合理な記載が認められないのは前記のとおりであること、前西副局長作成の現認書についても前記認定の事実に対比すると格別不合理な点は認められないことに照らすと、同原告の右供述及び(証拠略)の記載は採用することができない。

(2)  また、同原告は、管理者らの就労命令を発する声を一切聞いていない旨主張し、同旨の供述をするとともに、(証拠略)にはこれに沿う記載がある。

しかし、前西副局長及び田渕課長が、本件現場において、数回就労命令を発したことが認められることは前判示のとおりであること、同課長作成の現認書(<証拠略>)には、池田課長が本件現場に来て、第三集配課の職員に対し、就労命令を発した旨の記載があり、同副局長及び田渕課長は、公平委員会において、右同様の証言をしていること(<証拠略>)、公平委員会における原告らの供述及び各証人らの証言並びに各添付図面によれば(<証拠略>)、本件当時、同原告と右管理者らとの距離はほとんど離れていなかったと認められることに照らせば、同原告の右供述及び(証拠略)の記載は採用することができず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。

(四)(1)  原告谷本は、同原告が田渕課長とは長机を挟んで約一メートルの間隔を空けて対じしていたのであり、同原告の顔を同課長の顔に近付けるようにして同課長に詰め寄ったことはない旨主張し、(証拠略)にはこれに沿う記載がある。

しかし、前記認定のように、本件現場では、原告らを含む職員が田渕課長を取り囲むような形で抗議がなされ、右職員の数は、最終的には二〇数名に達したことからすれば、区分台と区分台の間にある長机を挟んで対じするような位置で抗議がなされたという右供述記載には不自然な点があることを否めないこと、同副局長作成の現認書(<証拠略>)及び田渕課長作成の現認書(<証拠略>)には、同原告が田渕課長に詰め寄った旨記載されており、右各現認書の記載に格別不合理な点が認められないことは前記のとおりであることに照らすと、(証拠略)の右記載は採用することができない。

(2)  また、同原告は、前西副局長の就労命令は聞いていない旨主張し、(証拠略)にはこれに沿う記載がある。

しかし、前西副局長が、本件現場において、数回就労命令を発したものと認められることは前記のとおりであり、公平委員会における原告らの供述及び各証人らの証言並びに各添付図面によれば(<証拠略>)、本件当時、同原告と同副局長らとの距離はほとんど離れていなかったと認められることに照らせば、(証拠略)の右記載は採用することができない。

4  右認定の事実によれば、原告らは、いずれも管理者が再三発した就労命令に従わずに、田渕課長に対して執拗に抗議を行い、また、原告早川及び同神保は、右抗議の過程において、管理者に対して不穏当な言辞を弄したものであり、管理者が発した再三にわたる就労命令に従わなかった原告らの行為は、国家公務員法九八条一項、九九条、一〇一条一項前段に違反し、同法八二条各号所定の懲戒事由に該当するものというべきである。

三  原告らは、本件各処分は、正当な意見具申に対する処分であること(再抗弁1)、氏名札着用の完全実施という労務政策上の必要性を考慮して発令されたものであるから、他事考慮の違法があること(同2)、組合の主要役員を狙い打ちにして発令されたものであるから、国家公務員法二七条の平等原則に違反するものであること(同3)、相当性を欠き、比例原則に違反するものであること(同4)から、懲戒権の逸脱ないし濫用である旨主張するので、右主張について判断する。

1  公務員につき国家公務員法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されていると解すべきであり、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができるものと考えられる。そして、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。

また、裁判所が懲戒権者の裁量権の行使としてされた公務員に対する懲戒処分の適否を審査するにあたっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と右処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきものである(最高裁昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁)。

2(一)  再抗弁1(一)のうち、平成二年六月四日に比嘉生野分会書記長と植木庶務会計課長との間で窓口折衝があったこと及び同月六日に生野局で経営推進幹事会が開催されたことは当事者間に争いがない。

(証拠・人証略)の結果によると、田渕課長は、第一集配課各班において本件ミーティングを行う際、各職員に対し、笹谷上席代理にあらかじめ本件ミーティングに関する資料(<証拠略>)を配布させ、右資料の配布が終わるのを待って、各班の入口付近に立ち、職員に対し、ミーティングを始める旨を告げた上、右資料を読み上げ、氏名札着用に関する職員周知を行ったこと、同課長が原告神保の前記非違行為に対し、現認発言をした際、同原告と同じ第三班所属の原告谷口は、同課長と原告神保のやり取りの内容は分かっておらず、また、原告谷本及び原告早川は、「現認」という声を聞いて、他の班から事情を知らずに現場に駆け付けたものであるにもかかわらず、右原告らは、田渕課長が原告神保に対し現認発言をした経緯を確認することなしに、右現認発言の取消を求める旨の発言をしたことが認められる。

前記及び右認定の事実によると、本件ミーティングは、氏名札着用の完全実施に向けての職員周知の第一段階として、本件達及び通達の内容を職員に周知するべく行われたものであり、周知形式としても、職員らとの討議を予定した業務研究会という形式ではなく、就労時間の一部を使っての短時間での周知を予定したミーティングという形式で行われたものであること、同課長がミーティングを行った第一集配課に所属している原告神保及び原告谷口は、いずれも右資料が配布されたこと及び同課長が職員周知を行っていることを十分に認識していたと認められること(<証拠略>)からすれば、同課長の周知方法は、不適切なものであったとは認められない。

なお、同課長は、本件の後、自ら第三班に戻って、ミーティングのやり直しを行っているが(<証拠略>)、右ミーティングのやり直しは、本件騒ぎを収めるために同課長が取った方策であり、同課長は、やり直しのミーティングにおいても、従前と同様の方法で周知をなしたものと認められる(<証拠略>)から、同課長が、自らミーティングをやり直したからといって、同課長の従前の周知方法が不適切であったとは認められない。

また、ミーティングにおいても、職員により非違行為がなされた場合には、管理者が右行為を現認することは、何ら不合理なことではなく、本件ミーティングにおいては、前記認定のとおり原告らにより非違行為がなされているのであり、原告らの現認の取消を求める旨の発言は、かかる前提を無視し、現認発言がなされた経緯を何ら確認することなくなされたものであるから、正当な意見具申とは認められない。

もっとも、原告早川は、当公判廷において、付近にいた職員に尋ねて田渕課長が現認発言をするに至った経緯を知り、同課長に対し、ミーティングのやり直しを求めた旨を述べている(第六回口頭弁論期日における本人尋問の結果)。

しかし、同原告は、公平委員会において、処分者代理人から同趣旨の質問がなされた際、田渕課長の現認発言の経緯を確認した旨の供述をしていないこと、原告らは、いずれもミーティングの場で管理者から現認発言がなされたということ自体を問題にしていたものと認められること及び前掲記の証拠に照らせば、右供述は採用できない。

よって、原告ら主張の労使確認の有無について判断するまでもなく、本件処分は、正当な意見具申に対する処分であり、懲戒権の逸脱ないし濫用である旨の原告らの主張は採用することができない。

(二)  再抗弁3(一)のうち、本件各処分当時の原告らの組合役職及び本件に関連して他に一一名の職員に対し訓告処分が発令されたことは当事者間に争いがない。

原告らには、前記認定のとおり、いずれも国家公務員法所定の懲戒事由が認められるところ、前判示の原告らの行為の態様、原告らの右行為に至る経緯、その間の管理者の対応などの事情を考慮すれば、原告らに対する本件各処分が相当性を欠き比例原則に違反するとか、社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、本件各処分が懲戒権者である被告に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用して行ったものであって、相当性を欠くとは認められない。

(三)  また、前記認定のように、原告らの行為は、国家公務員法所定の懲戒事由に該当し、それ自体本件各処分の対象とされることが社会観念上不相当であるとはいえない行為であって、本件全証拠によっても、被告が本件各処分をなすに当たり、原告ら主張のような他事を考慮したり、組合員を狙い打ちにしたといった事情があったとは認められない。

3  よって、本件各処分が懲戒権の逸脱ないし濫用であるとする原告らの主張は、理由がない。

四  結語

以上の次第で、被告のした本件各処分は、いずれも適法であり、原告らの請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 大竹たかし 裁判官 高木陽一)

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